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秘密保持契約(NDA)は、相手方に最初の秘密情報を開示する前に結ぶのが原則です。ただし、契約を結ぶだけでは十分ではありません。不正競争防止法で「営業秘密」として保護されるには、秘密として管理されていること・事業に有用であること・公然と知られていないこと、の3つの要件を満たす日常の管理が必要です。
このページでは、業務提携の実務で繰り返し見てきた失敗例をもとに、なぜ秘密保持が重要なのか、営業秘密の3要件、NDAを結ぶ前に決めるべき4つのポイント、締結前に開示してしまった場合の対処、締結後の日常管理と秘密表示の例を解説します。
執筆:業務提携契約専門の行政書士 遠藤祐二(マスター行政書士事務所)
①法律違反になるから
秘密保持について定めた代表的な法律は、不正競争防止法と個人情報保護法です。不正競争防止法では、他人の営業上の秘密を不正に取得・使用・開示した者は、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求などの民事上の責任を問われるほか、営業秘密侵害罪として10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金(またはその両方)が科される場合があります(法人は5億円以下の罰金。海外での使用などはさらに重くなります)。
また、個人情報保護法は、2017年5月30日に施行された改正で「取り扱う個人情報が5,000人分以下の事業者は対象外」という要件が撤廃されました。現在は、規模にかかわらず個人情報を取り扱うすべての事業者が対象です。
②取引先の信頼を失い、取引そのものを失うから
大手メーカーの中には、下請けの部品メーカーなど取引先の秘密保持の体制を監査し、その評価によって取引の継続や重要な図面の開示を判断するところもあります。秘密保持ができていなければ、法律違反で罰せられる以前に、取引そのものを失いかねません。逆に言えば、社内の秘密保持体制をきちんと整えておけば、取引先として信頼され、選ばれる理由にもなります。
③裁判で不利になるから
秘密保持がきちんとできていない企業は、紛争になったときに「不誠実な企業」と見られかねません。これは裁判での心証も同じです。私が以前勤務していた会社では、米国で訴訟を起こされた際、公判の中で社内の秘密保持がきちんと行われていなかったことが明らかになり、陪審の心証を悪くして、損害賠償額が一気に倍になるという事態を実際に経験しました。秘密保持は、いざ紛争になったときの会社の立場にも直結します。
④ライバルとの競争に負けないため
自社の技術やノウハウを、特許として公開せずに社内のノウハウとして守るのであれば、競合他社に漏れることは絶対に避けなければなりません。そのために、取引先に秘密情報を開示するときは秘密保持契約を結ぶ、社員には入社時・退職時に秘密保持の誓約書を提出してもらう、社内でも秘密情報にアクセスできる人を限定する、といった全社的な取り組みが必要になります。
秘密情報の具体例としては、次のようなものがあります。
・自社の情報(有形):顧客名簿、企画書、営業計画書、図面
・自社の情報(無形):電子メール、CADデータ、電子ファイル、口頭や映像で開示した情報
・他社からの預かり物:サンプル、仕様書
ただし、社内で「秘密」として扱っていても、次の3つの要件を満たさない情報は、不正競争防止法上の営業秘密としては保護されません。
①秘密として管理されていること(秘密管理性)
経済産業省の「営業秘密管理指針」では、会社が秘密として管理しようとする意思が、「社外秘」「Confidential」といった表示やアクセス制限などの合理的な措置によって従業員等に示され、認識できる状態になっていることが必要とされています。書類に秘密表示をする、鍵のかかるキャビネットに保管する、電子データにアクセス権限を設定する、といった措置がその代表例です。
②事業に役立つ情報であること(有用性)
いくら厳重に管理していても、その情報に価値がなければ営業秘密とは言えません。例えば、何十年も前に使われなくなった製品の古い設計図を社内で秘密として管理していても、通常は有用性が認められません。
③公然と知られていないこと(非公知性)
秘密に管理され、有用性があっても、既に社会一般に広まっている情報は営業秘密とは言えません。
だからこそ、法律による保護(営業秘密)と、契約による保護(NDA)の両方を、日常の管理とセットで考えることが大切です。
①いつまでに締結するか ―― 最初に秘密情報を開示する前に
よくある失敗が、商談が盛り上がった勢いで秘密情報を開示してしまい、それをもとに色々と議論したものの結局ビジネスにはならず、秘密情報だけが相手方に渡ってしまうパターンです。その場の雰囲気が盛り上がっているときに「ここから先は秘密保持契約に署名していただかないと開示できません」と言い出すのは勇気がいるかもしれません。しかし、相手方が秘密情報管理の重要性を理解している会社であれば、逆に「この会社は秘密情報をきちんと管理しているので信頼できそうだ」と受け止めてくれる可能性もあります。
②情報を開示する目的は何か
何のために情報を開示するのか、当事者の認識を一致させることが重要です。開示する側はできるだけ広く、受け取る側はできるだけ狭く目的を定めようとします。
・開示者の立場の文言(広く解釈できる):「TV開発に係る秘密情報開示のため」
・受領者の立場の文言(狭く解釈できる):「液晶TV型番1234の電源アダプタ回路の開発に係る秘密情報開示のため」
③情報の開示パターンは
双方が秘密情報を開示し合うのか、片方だけが開示するのかを確認しましょう。秘密保持義務は、自社にはできるだけ軽く、相手方にはできるだけ重くするのが原則です。
・双方が開示する → 双方が秘密保持義務を負う
・相手方のみが開示する → 自社のみが秘密保持義務を負う
・自社のみが開示する → 相手方のみが秘密保持義務を負う
④秘密保持期間はどれくらいか
秘密情報の価値や秘密性の度合いによって、秘密として管理すべき期間は異なります。やり取りする秘密情報にとって適切な期間を事前に検討しておきましょう。これを検討しなかったために、永遠に秘密を保持しなければならない羽目になった失敗例もあります。
「そうは言っても、締結前に開示してしまった」という場合でも、まだ手段は残っています。締結前に開示してしまった情報であっても、「後付け」で秘密保持契約の対象にすることができます。例えば、次のように規定します。
「本契約締結前に、○年○月○日以降に開示した以下の秘密情報についても、本契約の規定を適用する。」
契約書の日付を、最初に秘密情報を開示した日にさかのぼらせる(バックデートする)方法もありますが、事実と異なるため後に紛争の原因となるおそれがあります。できるだけ避けましょう。
受領する秘密情報
・受領した秘密情報は厳格に管理する(書類や記録媒体は鍵のかかるキャビネットや金庫に、電子データはアクセス制限のかかった場所に保存する)
・不要な秘密情報は受け取らない(秘密情報が増えるほど、管理のコストと漏えいのリスクが増えます。事業に必要なものだけに限りましょう)
開示する秘密情報
・開示するときは、秘密情報であることを明示する(資料や議事録に「Confidential」「社外秘」などと表示して渡す)
・口頭や映像で開示した秘密情報は、直ちに書面化する(媒体として残らない情報は後で特定することが難しく、流出後に相手方を責めても「何の証拠があるんですか?」と開き直られるおそれがあります。開示した内容を記載した会議の議事録を直ちに作り、相手方に確認の署名をもらっておくのが実務的です)
受領・開示に共通すること
・秘密情報の受け渡しの窓口を、当事者双方で決めておく
・秘密情報にアクセスできる人を、必要な担当者に限定する
書類やファイルには、表紙・ヘッダー・ファイル名などに「社外秘」「Confidential」と表示します。電子データにはスタンプを押せませんが、表示が不要になるわけではありません。WordやPDFのヘッダーやファイル名、メールの件名や本文に表示しておきましょう。メールの末尾には、例えば次のような文言を入れておく方法があります。
「このメール(添付物を含む)は、名宛人のみが閲覧できます。このメールには秘密情報が含まれている場合があり、名宛人以外の方がこのメールに記載された情報を公開、複製、配布、その他当該情報に依拠する行為を行うことは禁止されています。誤って受信された場合は、送信者にご連絡のうえ、このメールと写しをすべて削除してください。」
Q.相手方と秘密保持契約を結んでおけば、開示する秘密情報は法的に万全に守られますか?
A.いいえ、万全ではありません。開示する秘密情報に「秘密」「Confidential」などの表示をし、社内でもきちんと秘密として管理している必要があります。
Q.電子データにはスタンプを押せないので、秘密表示は不要ですか?
A.いいえ、対応が必要です。ファイルのヘッダーやファイル名、メールの件名・本文などに表示しましょう。
Q.秘密情報は、使う人が各自で責任をもって保管すれば十分ですか?
A.いいえ。重要書類や図面などの有形の情報は管理者を決め、台帳などで出し入れを組織的に管理しましょう。CADデータなどの無形の情報は、共用サーバーのアクセス権限やパスワードで組織的に管理しましょう。
Q.会社の入口にセキュリティシステムがあれば、社内は社員だけなので保管に注意はいりませんか?
A.いいえ。社員同士であっても、秘密情報の種類や重要性に応じて、見られる人とそうでない人を分ける必要があります。人事情報、M&A情報、極秘の研究開発情報などがその例です。
・NDAの交渉を相手方とスピーディーかつ友好的にまとめるノウハウは、秘密保持契約書で業務提携をスタートするための無料レポートにまとめています。
・NDAの後の本契約の交渉については、業務提携の契約交渉を成功させる8つの実務ポイントをご覧ください。
・NDAを締結した後、実際の継続取引へ進む場合に結ぶ取引基本契約については、取引基本契約書の前半ポイント(個別契約・納品・受入検査)をご覧ください。
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