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業務提携の契約交渉は、法律的に正しい条文を知っているだけでは成功しません。交渉前に何を準備するか、どちらの契約書案をベースにするか、相手の本音をどう引き出すか、合意事項と未合意事項をどう管理するか、その場で即答すべきか、どこまで粘るか――こうした交渉の進め方そのものが結果を大きく左右します。
ここでは、今まで1000以上の業務提携契約に携わってきた行政書士・遠藤祐二が、実際の契約交渉支援の中で積み重ねてきた実務上のポイントを8つにまとめてご紹介します。
1. 交渉前に想定問答を作る
2. できるだけ自社の契約書案を先に提示する
3. 相手が検討しやすい完成度の高い案を提示する
4. 相手の本音を引き出すため、質問は1回に1つ
5. 議事録で合意事項と未合意事項を残す
6. ペンディングリストを作る
7. その場で即答しない
8. 最後まで粘り強く交渉する
契約交渉を優位に進めるためには、必ず事前の十分な準備が必要です。まず自社のやりたい取引は何なのか、そのためにはどのようなことが必要か、という基本的な視点からもう一度見直しをし、それに基づいて全体的な戦略を立て、そこから細かい取引条件を考えていくというプロセスが必要です。当たり前のことのようですが、枝葉の細かい取引条件にばかり目が行ってしまい、大事なポイントを見落としてしまうことがよくあります。
「やりたいこと」が固まったら、具体的な交渉のストーリーを考えます。「この条件について相手がこう言ってきたら、ここまでは譲れるがここから先は譲れない」――できる限り色々な場面を想定して、エクセルの表などで想定問答集を作っておきましょう。最低限、次の4つを整理しておくと、交渉の場で慌てずに済みます。
・相手から予想される質問・反論
・それに対するこちらの回答
・譲歩できる範囲
・絶対に譲れない条件
なお、市販の雛型や似たような取引で使った契約書を字面だけ修正して、さっさと契約しようとするのは非常にリスキーです。取引条件は取引ごとに異なるため、実情にそぐわない契約書になる恐れがあります。こうした事前準備を万全にしておくことで初めて、実際の交渉の場で相手方から出される要求に対して、慌てず冷静に対処できるようになります。
専門家を関与させるタイミングも設計する
通常の取引条件の交渉では、弁護士などの専門家を最初から前面に出すと、相手方が「下手なことは言えない」と構えてしまい、実務担当者どうしなら確認できる事項まで硬直化して、話がまとまりにくくなることがあります。交渉の場を法律論だけにしないためにも、まず実務担当者どうしで確認できる事項を整理し、専門家には事前の準備や条文の確認から関与してもらうなど、関与の方法とタイミングを設計しましょう。一方で、法的リスクが高い案件、重要な権利義務に関わる条項、M&Aなどの高度な交渉、既に紛争になっている案件などでは、弁護士その他の専門家が交渉に直接関与することが必要になる場合があります。
通常、相手方にも自社で作成した標準契約書があります。どちらの契約書をベースに交渉するかは話し合いで決めることになりますが、ここは非常に重要なポイントです。標準契約書は通常、作成者側に都合の良い条件を盛り込んで作られています。相手方の契約書をベースに交渉を始めれば、当然こちら側は不利になり、不利な条項を一つずつ修正していく守りの交渉を強いられます。
契約書を提出する段階になったら、できるだけ相手方より先に自社の契約書案を提出するように心がけましょう。「先手必勝」です。
早く契約書案を提出することには、もう一つ大事なメリットがあります。それは「相手方の本音が表面化する」ことです。交渉の最初のうちは本音を明らかにせず、賛成なのか反対なのかわからないような態度を取り、交渉の大詰めになってから「いや、実はこうなんだ」とちゃぶ台をひっくり返す相手もいます。最初から両当事者の権利・義務・役割分担を明確にした契約書案を示すことで、そうした曖昧な態度を許さず、後になって大幅な手戻りを余儀なくされる事態を避けられます。
紙の契約書で交渉するのが中心だった頃、私は自社の契約書案を製本までして提出したことがあります。完成形に近い体裁の契約書案は、相手方にとって「これが交渉のたたき台だ」と受け止められやすく、その案をベースに話が進みやすかったという実感があります。
現在は、WordやPDFでのやり取りや電子契約での締結も一般的です。大切なのは製本という形式ではなく、相手がそのまま検討を始められる完成度の高い自社案を、先に提示することです。条文が整理され、必要な条項がそろった案であれば、相手はその案に沿って修正点を検討することになり、交渉の土台を自社案に置きやすくなります。もちろん、体裁を整えれば必ず交渉に勝てるというものではありません。あくまで、交渉の出発点を有利にするための工夫の一つです。
質問する前に、まず相手に話してもらう
相手方の契約書案を使うか自社案を使うかにかかわらず、相手が何を最も重要と考えているのか、どの点に反論しようとしているのかを聞かないまま、こちらの主張を先に述べるのは危険です。最初はできるだけ聞き役に回り、何が主な論点で何が付随的な論点なのかを見極めましょう。相手の発言は途中でさえぎらず、最後まで聞く姿勢が大切です。交渉での発言は、話しているうちに論理が二転三転することも少なくありません。全部を聞かないと全体像がわからず、本来どうでもよかった点が大きな争点に化けてしまうこともあります。相手の考えを把握してから質問しましょう。
相手の考えを聞き出すための質問や、相手を誘導するための質問は、なかなかその場の思いつきでは出てきません。質問は前もって用意しておきましょう。小さなことでも遠慮せずに聞くべきです。聞いてみると案外重要なことだった、ということは少なくありません。
そして、相手が覚えきれないほど一度にいくつも質問しないことです。例えば、
「納入機械の性能保証はできないということですが、それは生産量のことですか?それとも機械的保証のことですか?部品に欠陥があったら当然生産停止になりますが、それも知らないというのでしょうか?普通だったら部品の欠陥は修理か交換ですが、それもできないということですか?」
と矢継ぎ早に質問を浴びせると、一つ一つはごく当然の質問でも、相手は面倒になって「とにかく性能保証はしません!」と開き直るか、良くても最後の質問だけに答えて終わってしまいかねません。面倒でも一つ一つ丁寧に解きほぐし、一つの質問に相手が十分に回答したら次に移るようにしましょう。
回答にはじっと耳を傾けます。相手が答えている間に次の質問を考えていると、注意がおろそかになったり、相手の答えを自分が聞きたかったように脚色して聞いてしまったりします。また、質問の中に答えを入れるのもやめましょう。本音を言いたくなくて返事に窮している相手を助けることになるからです。表面的な回答だけでなく、その条項を譲れない理由や背景まで確認することが、本音を引き出す近道です。
せっかく苦労して交渉し、良い条件を勝ち取ったのに、その結果を記録していなかったために細かい点を忘れてしまったり、相手方から「そんなことは言った覚えはない」「あれはそういう意味ではなかった」と言われて議論が蒸し返しになったりすることがあります。
交渉の節目ごと(例えば1日の会議が終わった後)に、次の3つを議事録にまとめ、翌日には相手に確認してもらい、了承を取っておくのが理想的です。
①議論したこと
②合意に至ったこと
③未合意で、今後議論しなければならないこと
議事録のほかに作っておくと効果があるのが、未決事項を一覧にしたペンディングリストです。私は次の5項目で作っています。
①争点になっていること(条項)
②相手方の言い分
③相手方の言い分の矛盾点・弱い点
④こちら側の反論ポイント
⑤既に合意した事項
交渉が長期化する場合は、各項目に「現在の状態」「次回までの対応」「担当者」を加えておくと、論点を落とさずに済みます。内部資料にとどめるにせよ相手に見せるにせよ、これを作っておけば、交渉の合間に作戦を練り直し、新しい視点を見つけ、効果的に交渉を続けられます。交渉を再開するたびに同じ論点を何度も持ち出して堂々めぐりになることも防げます。
交渉の場で予想外の条件変更を求められても、あせってその場の思いつきで即答するのはやめましょう。安易に受け答えをすると「どうでも良いのだな」と受け取られ、その後の交渉に悪影響を及ぼすこともあります。
このような場合は、「持ち帰って上司や担当部門と検討し、○○日までに回答させていただきます」と断って、一旦持ち帰ります。会社としての影響、他の条項との整合、ビジネス上の影響を確認してから回答するためです。即答しないことは交渉力が弱いということではありません。こうした慎重な姿勢は、相手方に与える「この会社は契約に真剣に取り組んでいる」という印象も変え、良い結果につながることが多いものです。
相手方の主張を「はい、わかりました」と飲むのは簡単です。しかしそれでは、自社が多大なリスクを負う恐れがあります。外国企業との契約交渉では数年に及ぶこともあるほど、契約交渉は時間をかけて慎重に行うものです。安易に妥協せず、粘り強く交渉しましょう。
引くところと押すところを見極める
粘り強く交渉するといっても、すべての条件を通そうとするのが得策とは限りません。交渉を重ねて互いの主張と対立点が明らかになってきたら、決裂せずに合意するために、①互いの折衷案を探す、②相手の主張を受け入れる部分と自社の主張を通す部分とに色分けする、という2つの方法を検討します。②では「この部分は御社の条件で承知しました。その代わり、こちらの部分は当社の条件でお願いします」と交渉し、相手の主張も受け入れることで相手の顔を立てます。会社の利益は価格だけでなく、支払条件、納期、保証、責任の範囲など、複数の契約条件の積み重ねで決まります。受け入れられる条件と譲れない条件をあらかじめ整理し、総合的に判断しましょう。
「100対0」の契約書は交渉を壊す
自社を守りたい一心で、専門家に実際の取引事情を十分に伝えないまま自社に一方的に有利な条文だけを求めると、「100個中1個でも不良品があれば代金を一切支払わない」「納期に少しでも遅れたら直ちに契約をキャンセルできる」といった、現実離れした100対0型の契約書ができあがってしまうことがあります。技術やビジネスの打ち合わせは順調に進んでいたのに、こうした契約書案を提示した途端に相手方が態度を硬化させ、交渉そのものが壊れてしまうケースは少なくありません。裁判は勝ち負けを争う場面ですが、契約交渉はこれから長く続く取引関係をつくるためのものです。例えば「品質さえ確保できれば納期はある程度譲歩できる」といった実際の取引事情、自社が許容できるリスク、絶対に譲れない条件を専門家に十分に伝え、双方のリスク配分のバランスが取れたWin-Winの契約書案を用意しましょう。
例えば大企業から「当社の統一フォーマットなので変更できません」と言われても、そこで直ちに諦める必要はありません。変更できない理由を確認したうえで、代替案を検討します。契約書本体を変更できない場合でも、別途覚書を交わして、当事者間の変更事項を合意できることがあります。具体的な方法は契約書を変更できない場合に覚書を使う方法で解説しています。
相手方との契約条件の交渉、修正案の作成、交渉の準備について相談したい方は、契約交渉サポートをご覧ください。相手方から提示された契約書のリスクを先に確認したい方は、契約書リスク診断もご利用いただけます。
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