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取引基本契約書の前半ポイント(個別契約・納品・受入検査)

取引基本契約書のうち、個別契約がいつ成立するか、納品と受入検査をどう行うかといった「前半」は、法律家ではなく、実際の取引に携わる経営者や現場の担当者が自社の戦略として決めるべき部分です。取引基本契約は継続的な取引に共通する条件を定め、日々の注文(数量・価格・納期など)は個別契約で決まります。そのため、基本契約の条項だけを見るのではなく、個別契約の成立方法や受入検査まで一体として設計・確認することが大切です。ここを詰めないまま相手方の雛型で締結すると、交渉で不利な条件を押し付けられてしまいます。

このページでは、取引基本契約書が必要な理由、契約書の「前半」と「後半」という見方、基本契約と個別契約の関係、個別契約を成立させる3つのパターン(条文例)、納品と受入検査で押さえる3つのポイント(文例)を解説します。

執筆:業務提携契約専門の行政書士 遠藤祐二(マスター行政書士事務所)

1. 取引基本契約書とは:なぜ必要か

中小企業のビジネスで最もよく使われる契約書は、①秘密保持契約書と②取引基本契約書の2つです。おそらく全契約書のうち60〜70%は、この2つで占められるでしょう。新しい取引先との取引は、次の流れが最も一般的です。

秘密保持契約書の締結 → 新規取引先との秘密情報の交換 → 評価 → 合格 → 取引基本契約書の締結 → 取引スタート

注文書と注文請書だけで取引を行っている例もよく見かけます。しかし、商品の数量・価格・納期など、ごく限られた合意事項だけでは、現代の複雑な商取引にはとても対応できません。そこで、品質保証、知的財産、契約解除などの詳細な合意事項を記載した取引基本契約書を、本格的に取引を始める前に取り交わすことが、どの企業にとっても必要になります。

取引の前段階で結ぶ秘密保持契約(NDA)については、秘密情報の管理と秘密保持契約(NDA)の実務ポイントで解説しています。

2. 契約書の「前半」と「後半」で考える

中小企業の経営者や個人事業主の方が知っておくと得をする事実があります。それは、取引基本契約書が大きく「前半」と「後半」に分かれているということです。

◆前半:実際の取引に携わる担当者にしか判断できない部分
◆後半:高度な法的知識を要し、専門家のアドバイスが必須な部分

非常に多くの人が「契約書は後半の部分がすべて」と誤解しています。しかし、よく考えてみてください。法律の専門家に、納期をいつまでにしたらよいかがわかるでしょうか。弁護士が、品質保証の期間をどれくらいとったらよいかについて、明確に答えられるでしょうか。行政書士が、商品の受入検査の方法について、実際の担当者の方より詳しいでしょうか。答えはNoです。

「契約書のような面倒なものは、できるだけ専門家に任せて、さっさと締結してしまいたい」というお気持ちはよくわかります。でも、前半の部分は法律の専門家にはわかりません。経営者や現場の担当者の方々にしか正解を導き出せない、ビジネス上の重要なポイントなのです。ここについて自社の考え方・戦略が定まっていなければ、交渉相手に押し切られてしまいます。逆に言えば、このポイントをきちんと検討し、自社の考え方を固めておけば、契約交渉を優位に進めることができます。前半の部分はご自身でよく検討したうえで、むしろ法律の専門家に指示するぐらいの勢いで進めてください。

取引基本契約書で検討しておきたい主なポイントは、①個別契約の成立、②納品および受入検査、③所有権と危険負担、④契約不適合責任、⑤期限の利益の喪失、⑥相殺、⑦損害賠償および損害賠償額の特約、⑧契約解除、⑨契約期間の9つです。このページでは、このうち現場の判断が特に欠かせない①と②を詳しく解説します。

3. 基本契約と個別契約の関係

取引基本契約書には、品質保証、知的財産、契約解除など、その取引先とのすべての取引に共通する条件を定めます。一方、個別契約とは、日常的に取引先と取り交わす「これを買います」という注文書と、「ありがとうございます。承ります」という注文請書による合意と考えてください。数量・価格・納期といった個々の取引の条件は、この個別契約で決まります。

そこで、基本契約の中で次のような点を決めておく必要があります。

・いつの時点で注文書は有効になるのか?
・相手方の諾否(注文請書)は必要なのか?
・注文書の発行から1年後に注文請書が来たらどうなるのか?

買主側の購買担当者にとって、とても気になるところです。売主側で商品を製造・発送する担当者にとっても同じです。基本契約と個別契約は、一体として設計・確認することが大切です。

4. 個別契約を成立させる3つのパターン(条文例)

実際には、「売主側の営業担当者」と「買主側の購買担当者」の間で契約交渉が進められることが多く、売主側の営業担当者が商品の製造・発送の担当者と密に連絡をとっていないことも珍しくありません。そのため、きちんと自社の主張ができず、買主側に押し切られてしまうケースが多いようです。

個別契約の成立にはいろいろなバリエーションがありますが、基本は次の3パターンが多く見られます。

パターン①(買主有利):注文書の発行で成立する
個別契約は、買主が注文書を発行することにより効力を生じる。

パターン②(売主有利):売主の承諾で成立する
個別契約は、買主が品名・数量その他事項を記載した注文書により申込を行い、売主がこれに承諾することにより成立する。

パターン③(両者平等?):一定期間内に拒否がなければ承諾とみなす
個別契約は、買主が売主に所定の注文書を交付して注文し、売主がこれを注文請書にて承諾することによって成立する。但し、注文書の交付後3営業日以内に売主が承諾拒否の通知を買主にしないときは、当該注文を売主が承諾したものとみなし、買主の注文どおりに個別契約が成立する。

パターン①は注文書を発行した時点で成立するため買主に有利、パターン②は売主が承諾しない限り成立しないため売主に有利です。パターン③は、売主の承諾で成立することを原則としつつ、一定の期間内に拒否の通知がなければ承諾したものとみなす形です。売主の立場では、注文を受けられるかどうかを社内で判断するのに「3営業日」で足りるのかを、製造・発送の担当者とあらかじめ確認しておきましょう。

最近はEDIシステムなどの受発注システムを導入するケースも多いですが、基本的な考え方は同じです。自社の事情をよく考えて、適切な主張をしましょう。

なお、締結後に承諾期間を変えたくなった場合(たとえば「3営業日以内」を「5営業日以内」に延ばす場合)は、覚書で変更できます。変更覚書のサンプルは、契約書と覚書・確認書・協定書・念書の違いと使い分けで紹介しています。

5. 納品と受入検査で押さえる3つのポイント(文例)

ポイント① 検査方法
ひと口に受入検査といっても、商品の特性や納入数によっていろいろなバリエーションが考えられます。買主が定めた検査方法・規格に基づくのか、売主が定めるのか、両者で協議して定めるのかなどについて、当事者でよく話し合って記載しましょう。

ポイント② 納入日と検査日
売主としては通常、商品を納入し、検査に合格すれば、安心して売掛金として帳簿に計上できます。ところが、「納入日」と「検査日」の間が大きく離れているときが問題になります。商品を納入したのに、いつまでたっても買主が検査合格を出してくれず、請求書を発行できない状態が続いたら、売主としては大変なことになります。トラブルを避けるためにも、納入後どのようなスケジュールで検査を行うかまで両当事者で細かく話し合い、契約書に記載することがポイントです。また、商品の特性によって受入検査を省略する可能性があるときは、その旨もきちんと記載しましょう。

ポイント③ 不合格品・数量不足・数量超過の場合の処置
検査の結果、不合格などが出た場合の後処理をどうするのか。代品の納入、損害賠償、不合格品の引き取りなど、いろいろな方法があります。その時になってあわてても手遅れです。個々のケースに応じてどう対応するのかを当事者間で話し合い、契約書に記載しておきましょう。

(文例)
1. 買主は、売主による商品納入後、直ちに両当事者で協議して定めた検査方法・規格に基づき受入検査を行い、合格した物のみを受け入れる。不合格になったものについては、速やかに書面等により売主に通知するものとする。
2. 前項の定めにかかわらず、当事者間であらかじめ受入検査を省略することとした場合は、買主は売主が納入した商品を直ちに受領するものとし、これをもって検収とみなす。
3. 売主は、受入検査の結果、不合格になったものについては、売主の負担で引き取り、買主の指定する期限までに代品納入を行い、また数量不足が判明したときは、買主の指定する期限までに追加納入をしなければならない。
4. 売主は、受入検査の結果、契約数量を超えて超過納入をしたときは、買主の指定する期限までに、売主の負担で超過分を引き取るものとする。
5. 買主は、受入検査の結果、不合格になった物について、その不合格が些細な事由によるものであり、買主の工夫により使用可能であると認める時は、売主と協議のうえ価格を決定し特別にこれを引き取ることができる。

6. 契約書を作るときに確認したいこと

取引基本契約書を作成・確認するときは、次の点を一体として確認してください。

・取引全体に共通する条件(品質保証、知的財産、契約解除など)を基本契約で定めているか
・日々の注文が、いつ・どのように個別契約として成立するか(3つのパターンのどれを採るか、承諾の期間は自社の体制で足りるか)
・受入検査の方法、納入から検査までのスケジュール、検査を省略する場合の扱い
・不合格品・数量不足・数量超過の場合の処置

前半のポイントは、相手方の雛型をそのまま受け入れるのではなく、営業・購買・製造・発送の担当者と自社の考え方を固めてから交渉に臨むことが大切です。所有権と危険負担、契約不適合責任、損害賠償、契約解除などの後半の条項は、高度な法的知識が必要な部分ですので、専門家に確認することをおすすめします。

7. ご相談

相手方から提示された取引基本契約書に、自社に不利な条件や実務上のリスクがないか確認したい方は、契約書リスク診断をご利用ください。自社の実情に合った取引基本契約書を作成したい方は、業務提携契約のトータルサポートでご相談を承っています。

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