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結論から言うと、ほとんどの契約は当事者の合意だけで成立するため、契約を「有効にする」ために契約書や覚書が必要なわけではありません。ただし、保証契約や定期建物賃貸借など、書面(または電磁的記録)がないと効力が生じない一部の契約は例外です。そして、トラブルを防ぎ、後々自社を守るという意味では、契約書や覚書は必ず作っておくべきものです。
「必要?」という言葉には、①法律上、契約書がないと無効になるのか、②実務上、契約書があった方が安全か・役に立つか、という2つの意味があります。このページでは、この2つを分けて、契約書や覚書を作るべき5つの理由まで解説します。
執筆:業務提携契約専門の行政書士 遠藤祐二(マスター行政書士事務所)
一部の例外を除き、契約は「申込み」と「承諾」という当事者の合意だけで成立します。民法も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に書面の作成などの方式は不要と定めています(民法第522条)。
例えば、八百屋さんで野菜や果物を買うときの「これ買います」「毎度あり」という口頭のやりとりも立派な契約です。契約書や覚書という書面になっていなくても、この口約束には法的拘束力(効力)があります。
ビジネスでも同じです。ある小売店が「A社のパソコン○○××を20台お願いします」と代理店に電話をかけ、代理店が「ありがとうございます。明後日の配送で手配します」と答えれば、この時点でパソコン20台の売買契約が成立します。
つまり、「契約が有効か無効か」という意味では、多くの場合、契約書や覚書は必要ではありません。
法律で方式が定められている一部の契約は、書面などによらないと効力が生じません。代表的なものは次のとおりです。
・保証契約:書面でしなければ効力を生じません。電磁的記録によるものは書面によるものとみなされます(民法第446条第2項・第3項)。
・定期建物賃貸借(更新のない建物賃貸借):書面によって契約する必要があります。2022年5月の法改正により、電磁的記録による契約も認められるようになりました(借地借家法第38条)。
・事業用定期借地権:公正証書によって設定する必要があります(借地借家法第23条)。
・任意後見契約:公正証書によって締結する必要があります。
また、契約の有効性とは別に、法律で取引条件を書面や電磁的方法で明示する義務が発注者側に課されている取引もあります(例:フリーランスへの業務委託、中小受託事業者への製造委託等)。取引の種類によって必要な書面が異なるので、個別に確認しましょう。
一方で、「契約書や覚書があった方が安全か?役に立つか?後々助かるか?」という意味では、契約書や覚書は間違いなく必要です。その場面を一つずつ見ていきましょう。
①トラブル防止のために必要
口頭、電話、FAX、メール、チャットだけの契約では、本人が本当に契約の意思を示したのかが第三者にはわからない、契約条項の内容が明確でない、契約成立の証拠が残りにくい、といった大きな欠点があります。そのため実際の商取引では、契約書や覚書を取り交わすのが常識です。簡単な注文書だけで取引している例もありますが、通常の注文書の記載だけでは、将来起こり得る様々なトラブルに対応するには不十分です。
また、契約書や覚書を取り交わすことで、相手方に(時には自社内に対しても)契約内容をきちんと履行させる心理的な効果が生まれ、契約違反を未然に防ぐことが期待できます。相手方と親しい間柄だと「契約書を求めるのは失礼では」と遠慮しがちですが、ビジネスライクに契約書や覚書を作っておくことで、当事者間の思い違いによるトラブルを防ぎ、結果として親しい関係を守ることにつながります。
②交渉を有利に進めるために必要
大手企業と中小企業の力の差は歴然としています。その差があるために、中小企業が不利な条件を押し付けられてしまうことも少なくありません。力の強い側は、重要な取引条件をあえてあいまいにしておき、後で「言った言わない」のトラブルになったときに力で押し切ろうとすることがあります。
だからこそ中小企業にとっては、きちんと契約交渉をして、その結果を書面にしておくことが、後でトラブルになったときに「契約書にはこう書いてありますよね?」と反論できる最も有力な手段になります。交渉の進め方は業務提携の契約交渉を成功させる8つの実務ポイントで解説しています。
③経理・税務の業務のために必要
契約書や覚書は、経理部門が支払処理などを行う際の重要な証拠書類です。普段は契約書を見返すことは少なくても、会計監査などで疑義が生じたときに契約書がそろっていないと、後々トラブルのもとになります。税務調査でも、取引の実在や内容、金額の根拠を示す資料として契約書が確認されます。契約書などの取引関係書類は、法人の場合、原則として7年間の保存が必要です。電子契約で締結した場合は、電子取引のデータとして保存する必要があります。
④ビジネス戦略を整理するために必要
契約書や覚書は、当事者間で合意しておかないと後でトラブルになるポイントの集合体です。そして、そのポイントの多くは、ビジネスを進めるうえでの重要な戦略ポイントでもあります。
そのため、契約書や覚書を作り、契約交渉の戦略を練っていくことが、ビジネス戦略を整理し、問題点や改善点を発見するきっかけになることがよくあります。私もクライアントの方と契約書のポイントを議論していると、法律の話を超えて、ビジネス戦略そのものの議論になることが多々あります。
⑤民事裁判で戦うために必要
民事裁判の勝ち負けは、原告と被告がいかに確実な証拠を示せるかが大きな決め手になります。証人や録音も証拠になり得ますが、人の記憶に頼った証言には不確実な面があります。メールやチャットも、誰が送信したのか、内容が改ざんされていないかが争われることがあります。
その点、本人または代理人の署名や押印がある契約書は、真正に成立したもの(本人の意思に基づいて作成されたもの)と推定されるため(民事訴訟法第228条第4項)、高い証拠価値が認められています。電子契約でも、本人による電子署名がある電磁的記録は、真正に成立したものと推定されます(電子署名法第3条)。正確で詳細な契約書や覚書を作っておけば、裁判になったときにも有利に進めることができます。
「覚書」は契約書より軽いものと思われがちですが、法的効力は表題ではなく中身で決まります。合意内容が契約の実質を備えていれば、覚書も契約書と同じように当事者を拘束します。契約書を作ったあとの条件の追加・変更に覚書を使う方法は、契約書と覚書・確認書・協定書・念書の違いと使い分けで解説しています。
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